結論
- ソフトスキルは、それなりに身につくが、偏りがある
- 空気を読む、組織認識力をもつ、など一般社会人に求められるレベルを超えた、組織人として生き抜くための「コミュニケーション力」が身につく
- 一方、その他のソフトスキル(例.論理的思考力、構想企画力など)をOJTで身につける機会は限定的である(よほど意識の高い方を除き)
- ハードスキルは、身につける時間がない、もしくは、体系的に教えられる人が社内にいない
- 異動が多いため、OJTではハードスキル(=専門知見)獲得の時間がとれない
- 仮に時間があったとしても、OJTで体系的に教えられる人が社内にいない
なぜこれを書くか
私(れね)の実感値として、銀行員は普通に仕事をしているだけでは、市場で評価されるようなスキルが身につかず、市場価値が低迷する。
逆に、その理由が分かれば、理由をつぶしこむことで市場価値を意識したスキル獲得ができると考える。
そもそもソフトスキル、ハードスキルとは何か
そもそも、ソフトだとか、ハードだとかなんやねん、という方のために。知ってるよ、という方は読み飛ばしてください。
- ソフトスキルとは、
業種・職種・シチュエーション横断で応用可能なスキル。スキルの程度を示す客観指標が一般に存在しない。
(以下、例)- コミュニケーション力
- 論理的思考力
- 構想企画力
- リーダーシップ
- チームビルディング力
- ファシリテーション力
- ハードスキルとは、
特定の業種・職種・シチュエーションでのみ応用可能なスキル。スキルの程度を示す客観指標が存在する場合が多い。(以下、例)- 特定の業種知見
- 例. 自動車業界に詳しい
- 特定の職種知見
- 例. 財務分析力がある
- 例. 法務知見がある
- 例. システム知見がある
- 特定のシチュエーションで活きる知見
- 例. 英語力がある
- 特定の業種知見
理由1:ソフトスキルは、それなりに身につくが、偏りがある
他業種でも役に立つポータブルスキルとして、ソフトスキルは非常に重要であり、幅広く高い水準で身につけることが大切。
一方で、銀行では、組織で生き残るための組織認識力や、空気を読むなど広義の「コミュニケーション力」が重視されるため、結果的に、このスキルばかり偏って身につく傾向がある。
こんなヒトを見たことないだろうか。
- 上司の好みや癖を事細かに把握して、顔色を見ながら、アプローチを巧みに使い分けるヒト
- 他人の昇格・異動情報にやたら詳しいヒト
- 上司の主張・論理をそのまま、部下に押し付けるヒト
このような方々は、組織で生き残るためのスキルを、無意識に偏って体得してきた銀行員である。
1点断っておくと、社内向けのコミュニケーション力とは違い、営業で活きる社外向けのコミュニケーション力を高度に身につけている方は、それだけで他業種でも食べていける可能性があり、偏っていたとしても肯定的にとらえられるスキルである。
一方で、その他のソフトスキルは重視されることがほとんどない。
特に、営業現場になるほど、この傾向は強くなる。
例えば「論理的思考力」を例に挙げ、れねの経験を振り返る。
法人の融資担当が社内稟議書類(=なぜ融資するべきかの理由を記し、社内承認をとるための書類)に書く文面は高度に標準化されており、よほど難しいケースを除いては、ほとんど人間の頭を使わなくても書ける。
具体的には、担保が十分か、返済可能性が高いか、などを書いていくのだが、機械的な四則演算ができれば、それ以上の論理的な思考を要しない。
そこには、その顧客の業界が今後どうなるのか、競合はどうなのか、当社の強み・弱み・脅威・機会はどうなのか、といういわゆる一般的な3C・SWOT分析等の考えるための基本的なフレームすら登場しない。
理由2:ハードスキルは、身につける機会がない、もしくは、体系的に教えられる人が社内にいない
はじめに断っておくと、銀行員をやっていると、通り一片のスキルは身につく。例えば、個人向け営業であれば、投信などの運用知見、法人向け営業であれば、B/S・P/Lを読む財務分析力、がそれにあたる。
但し、大切なのは、市場価値がつくレベルかどうかという問題である。上述のスキルは、本邦の銀行員22万人のほとんどが身に着けている可能性が高く、差別化にはつながらない。
例えば、運用知見であれば、
効率的フロンティアを描いて、ポートフォリオを複数提案できる
例えば、財務分析力であれば、
バリュエーションモデルを作成できる
という水準であれば、少しは勉強してるね、ということで、評価されるかもしれない。
これらのスキル獲得を妨げる要因はいくつか考えられるが、異動が多いという銀行固有の事情が学ぶ機会や時間を制限していると考えられる。
さらに、仮に学ぶ時間が十分にあったとしても、体系立てて専門知見を教えられる人が社内にいない場合が多い。
もう少し、要因をふかぼると、古きよきリレーションシップバンキングが通用した時代であれば、小難しいことは抜きにして、
お願い営業で、お客さんに契約をしてもらう
が鉄板のアプローチであったので、「小難しいこと学ばなくても、やってけるよ」という先輩社員が多数、というのが実体であろう。
おわりに:ではどうすればよいのか
以上、銀行員はなぜスキルが身につかないとされるかを、れねなりに分解して検討してみた。
では、どうすればよいのか。お先真っ暗ではない。
自分が求めているスキルがなぜ身につかないのか、の要因を理解し、逆に、その要因をつぶしこみ、OJTで身につけるためには?という逆転の発想でアプローチしてみるのもよいだろう。
例えば、
- 簡単な稟議に飽きたら、「論理的思考力」を求められる難しい融資案件にチャレンジする
- 良い見本がいないのであれば自分がなる
(例. 支店の上場企業顧客のバリュエーションモデルを作って、顧客の中期経営計画の妥当性につき顧客とディスカッションする)
など、現場でもやりようがあるはずである。このような人は、れねの周りにも実際存在して、順調に銀行でスキルアップを果たしていった。
なお、ハードスキルに限っては、外部にはたくさん先生がおり、手っ取り早い手段としては、資格取得や専門スクールの受講がある。
これらについては、れねの実体験を含め、別稿できればと思う。
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